2012年10月19日

アイアン・スカイ

世界中で話題になっているB級SF映画『アイアン・スカイ』を観に行ってきました!
なかなか時間が取れず、今日やっと観ることができました。近くの映画館でやってないのでね。

「月からナチスがやってくる!」という謳い文句に惹かれたのも事実ですが、観終わった後、これはすごい作品を観てしまったぞと、満面笑顔になってしまいました。笑える作品というのではありません。作中に盛り込められた夥しいパロディ、風刺、皮肉、批判の数々に、ただただ痛快でした。

B級映画ファンはもちろんのこと、SF映画ファン、SFアニメファン、北欧神話好きにおすすめしたい作品。
ドイツといえば北欧神話、ヒトラーといえばワーグナー「ワルキューレの騎行」でしょう。
そしてパンフレットを読んで知ったのですが、この作品の制作費が世界中からの寄付・投資で成り立っているという点に感銘を受けました。
ことハリウッド映画はありきたりでつまらないと言われて早数年。フィンランドで産声を上げたこの作品への出資は日本人も多く出しているそうです。それも個人レベルで。すごい!

詳しくはパンフレット参照のこと。パンフレットには作中に登場するパロディの一部が解説されているので、買って損はありません。
僕は映画マニアというわけではなく、ただの映画好きですので往年のナチス批判を描いた作品に関しては明るくありません。そのため、パンフレットには書かれていない面白い点なども紹介しましょう↓



※以下、ネタバレを含みます。ご了承ください。


アメリカが月に探査艇を着陸させるのは46年ぶりらしい。
作中の時代設定は2018年と6年後の世界なので、40年は経過しているわけですね。
とても穏やかな音楽と、地球の俯瞰映像で始まるため、これが戦争を描く作品であることを一瞬忘れます。
この音楽もライバッハが担当していると思うと脱帽ですね。ただのカルトバンドじゃないんだと。
探査艇の美術はまずまずなのですが、宇宙服がいかにも安っぽくて味が出ています。単に予算がないというわけではなく、こういう味が出ていることこそリアリティがあります。

月の裏側については何もないとされているものの、あんな巨大な軍事基地があったら面白いでしょうね。
上から見るとハーケンクロイツの形をしているとかさ。権威の象徴であり、帝国主義の象徴です。
しかも、月におけるナチス軍というのが絶妙にマッチしている。月というのはモノクロで、色のない世界というイメージだ。そんな白黒の月面世界において、かつて滅んだナチス軍、帝国主義といった「旧世界」を描くことは時代を感じさせる描写となっており、極めてよく似合うのです。
なおかつ、ナチス軍は1945年に月に逃れたという設定のため、基地の設備は1945年のまま止まっているようです。資源の採掘は行われているとはいえ、優秀な科学技術者たちによる大規模で効率的な開発ができない状況下にあると言えます(かつ資金も多くないと見える)。

ここでもったいぶってタイトル表示。実にいいよね。もったいぶってタイトルを表示する作品が好きなんですよ。始まったらすぐタイトルを表示するのではなく、こうやってCG使って壮大に出してくれると胸が高鳴ります。

軍事基地で「月面帝国国歌」が、国歌演奏装置によって流れるのですが、これもライバッハによるものとパンフレットに記載があり、驚きました。普通に既存の曲を使っているのかと思うほどよくできているからです。実に素晴らしい。

で、探査艇乗組員の片方が殺され、片方が捕虜にされます。
捕虜にされたワシントンは黒人なのですが、白人による黒人差別がいきなり如実に描写されます。月面ナチス軍の価値観や世界観は1945年のままなので、「当然そうなる」という設定のもとに脚本が書かれていますね。でもこれは当時への批判ではなく、まさしく現代への差別に対する批判です。
でもワシントンは一応は宇宙飛行士なわけですから、外へ逃げようとしてあんなに安易にエアロックを開けるというのもおかしい気がしますね。
やはり彼ら探査艇乗組員は選挙のための道具でしかなかったのでしょうね。

“第四帝国”総統コーツフライシュの右腕であるクラウス・アドラーが乗っとり計画を企て、上司たちを「老害」と言ってみせるのも現代への風刺です。
レナーテがいいですよね。「地球学者」という肩書きも面白いし、教えている子どもたちはジークフリートとかブリュンヒルデとか、みんな北欧神話の登場人物の名前を冠しているのかな? チャップリンの映画を観るというシーンもいいね。
ワシントンがエアロックを開けたときに、レナーテも巻き込まれちゃうわけですが、そのときに服が乱れて下着が露わになるのがエッチですね。スカートが脱げ、なぜか服のボタンが外れ、純白の下着が丸見えです。おじさん興奮しちゃったよ。

レナーテの父であるリヒター博士はアインシュタインを模しているのかな? スマートフォン(よく見えなかったが、ワシントンの言動やマッキントッシュCMへのパロディからして、おそらくiPhone)を戦艦「神々の黄昏」号のメインコンピュータに繋いで、「これをユニバーサル・シリアル・バス、略してUSBと呼ぼう」とか笑いました(USB規格は1996年に登場。彼らは1945年のままの技術を用いている)。
戦艦の名前も「神々の黄昏」号とかいいですよねぇ。地球を滅ぼさんとする戦艦の名前にピッタリです(神々の黄昏=ラグナロクは北欧神話における最終戦争)。

地球でのシーンもちょいちょい挟まりますが、登場人物の背景やキャラクター描写なのでまだ問題なし。
大統領はサラ・ペイリンをモチーフにしているとか。パンフで読んで、ああそうかと納得。面白くなった。まあわかりますかね。「YES SHE CAN」はひどい(笑) 痛烈なオバマ政権批判でしょうね。まあオバマ氏に限らず、どこの政治も牛歩戦術になりつつあるようで(特に日本は顕著)、次代の大統領になってもやってることはあんまり変わってないよという訴えなのでしょう。
ホワイトハウスの高官? みたいな女性も出ます。やたら部下に対して怒っていますが、よくわからない。まあ選挙活動に関連する何かでしょうね。特に内容は重要ではなく、要するに彼女も大統領も選挙を重視していて、選挙のためだけの政治というものに対する批判です。
スカイプのホログラム通話が面白い。音に傾注しましょう。

ナチス軍もいきなり地球に攻めこむのではなく、まずはアメリカ大統領を利用しようとする。殺しても構わないはずですが、ナチス党の宣誓のようなものを刷り込ませ、アメリカ大統領の口から同じ理想を発してもらう。アメリカも全体主義国家の一途を辿るであろうという皮肉ですね。しかもあの大統領をして無理やり言わしめたわけではなく、彼女がレナーテの弁ずるナチスの理想を素晴らしいと思って採用しちゃうところが良い意味でひどい(笑) 政治分野の描写はほぼ批判に溢れています。「世界の医者です」とか言ってね。ユダヤ人浄化の大義名分でしょうね。ドイツが「医者」と言うことにも意味があるかな。

でも総統コーツフライシュの横槍が入り、作戦が急展開に。
もっとじわじわ取り込んで、油断させてから攻めるのかなと思っていましたが、すでに展開されてましたよね。あれはコーツフライシュの独断かな。
地球を攻める際に、ナチス軍の残党たちの軍事力でどうするのかなと興味津々でしたが、隕石を使うというのは合理的ですね。しかもただの隕石ではなく、ジャイロを積んでいるような描写もありますね。誘導隕石。電気隕石と言っていましたか? 機械化(電子化)されているということでしょう。
で、国連総会がにわかに焦りだすわけですが、そこでどこの軍隊だ? という話になり、北朝鮮が我々のものだといって各国首脳が爆笑するのが最高でしたね。僕も笑ったし、後ろに座ってた女性2人組のお客さんも笑ってた。いいね。
で、戦艦の側面のハーケンクロイツの紋章をモニターに映しだされ、インドの首脳がハーケンクロイツを象った指輪を震える手で隠すところを見ていた他の首脳が指さして糾弾し始め、狼狽したインド首脳が「これは平和の象徴だ!」とか言っちゃうのがもうでたらめな面白さ。
各国が宇宙戦艦(ミサイルを積んだスペースシャトル)を繰り出すわけですが、START(戦略兵器削減条約)からこのかた軍備縮小、兵器撤廃は基本で、スペースシャトルにも積まないことになってるのにみんな積んでる。条約を守り、兵器を積んでいないのはフィンランドだけー!!(ドヤ) ※この映画はフィンランド製作です。

艦の描写は見事なもので、まさに“宇宙艦隊”の様相を呈しています。どの艦もみんなカッコイイ! まさにSF! 下手なSFよりカッコイイぞ。
そしてナチス軍の宇宙艦隊も飛行船を模していますが、あれはあれでクラシックでいいですよねぇ。ともあれ、やはり簡単に殲滅されてしまう。
普通ここで、宇宙戦争やって終わりじゃないですか。でも国連軍は月へ向かい、ナチス残党を根絶やしにしようとします。このあたりアメリカ軍への批判でしょうか。

地球でのニュース映像で、宇宙人が攻めてきているように見えるのも圧巻。
そして、時刻が重要。なんと、午後9時11分なんです! 気づきましたか? ニヤニヤしちゃった。9.11は僕にとってもアメリカにとっても特別な数字です。

ナチス軍の飛行船艦隊は「ワルキューレの騎行」。各船にもジークフリートのように北欧神話の登場人物の名前がついています。対してアメリカの艦はジョージ・W・ブッシュ号。
「神々の黄昏」号の描写がたまらん! 蒸気機関とかドイツ車とかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしい近代技術の骨董品のような動き! 色使い! 地面の下から登場する! 砲門が開く! 光る!(*゚∀゚)=3ムッハー こればっかりは実際に観てくださいとしか言いようがない! メカ好きはヨダレ出ちゃいますよ。
「神々の黄昏」号のフィギュアが出たら絶対欲しいね。絶対買う。

かつてナチス党下のドイツはUFOの研究をしていたというのは歴史マニアの間では有名らしい。そのため、クラウスが地球に来るときの船がUFOっぽいし、マンハッタン上空を襲っているナチス軍もUFOっぽいんだ。実に面白いね。

ここで、ワシントンとレナーテの内部工作のおかげで「神々の黄昏」号、沈没す。国歌演奏装置とか、クラウスのやられ方とかめっちゃ面白いよ。ひどくあっけないんだけど、このあとの展開を考えるとこれでいいんだ。
観たときは、もっとナチス軍v.s.国連軍のガチバトルを観たかったな~と思い、ヴィヴィアン(ホワイトハウス高官女性。広報官らしい)が「がっかりだわ」と言ってるのと同じ感想を抱きそうになりました。
でも、「神々の黄昏」号沈没後、月にてナチスが貯蔵しているヘリウム3は誰がゲットするかという話になり……(ヘリウム3はヘリウムガスの同位体。月の岩石からの採取研究が行われているらしい。要するに、天然ガスの燃料)。
まあどうなるかはわかりますよね。アメリカ大統領が、「月に旗立ってんだからアメリカのものだ」と主張し、会議は非難轟々に。天然ガスの取り合いになり、中国と日本が取り合ってる状況が世界各国多国間で行われるわけですよ。
戦争勃発。
日本の艦が別の艦に「特攻」している描写はブラックだな~と思った。核爆弾落としたときのキノコ雲もそう。核爆弾落とすときに、乗組員が「女や子供もいると思いますが」とか案じたり、「核爆弾を発射するときには……」とか規約を読み上げようとしたりするのがいいね。それに抗して「やれ」と。まさに第二次世界大戦へのブラックジョークです。観ている人たちは、ヴィヴィアンではなく、他のためらっている乗組員に感情移入してしまうよね。
地球上でも核ミサイルの打ち合いのようなことが行われている。
核ミサイルの打ち合いの中、エンドロールが始まる。レナーテはワシントンとキスして終わり。白人と黒人がキスしていることに関してばあちゃんが何か言ってるけど、どうでもいいよねって感じ。
「いつ地球に行けるの?」とも聞かれますね。これに対してレナーテは無言。なにせ地球では核戦争が勃発しております。行ってもいいことナシ!

最近の映画はエンドロールでも真っ暗な映画が増えました。『シャーロック・ホームズ』ぐらいでしたかね、エンドロール中も映像出てたの。
宇宙空間の中、画面はどんどん引いていっている。
最後に火星が登場! 火星にも資源が見つかったら、きっと彼らはまた戦争を繰り広げるだろう。歴史は繰り返す。戦争ってクソだね。そういう教訓でしょうね~。

実に良かった! 最高だ! 今年観た映画の中では1番面白かったかもしれません。
ナチスはメインの敵だが、本当の敵はナチスではない。
きっかけなんて何でもいいんでしょうね。来るべき将来、「戦争の有無」を問うています。
ナチスだろうとイラクだろうと関係ない。月に天然資源が見つかる、火星に天然資源が見つかる、そういったときに戦争の危機が少なからずあるということを示唆している作品です。
これほど強烈な戦争への警鐘を鳴らしている作品は他にないでしょう。なぜならアメリカ映画なんて戦争に対しては肯定的な面が強いですからねぇ(過去の傷とはしても、将来起きないようにするとは言及していないように思えます)。
僕は最近話題のオスプレイが好きなのですが、あれも戦争の道具ではなく、戦争が起こらないための道具としてもらいたい。
どうでもいいけどオスプレイと『Opus Dei』って似てるな。

とても面白くて、ユーモアに溢れる作品、お色気シーンもあり、笑えるシーンもある。それも痛快な皮肉がたっぷり込められているのだ。しかもただのB級SF作品ではない。戦争に対して深く考えさせられる作品である。
観ることができてよかった。観る時間がある方はぜひ。ブルーレイも欲しくなってしまった。期待を大きく上回る前代未聞の名作です!

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