2010年8月21日

水溜りのホップロック 10

[目次]

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・加筆修正版を後日ウェブサイトに掲載いたします。
・続編(11以降)は現在構想中です。
・ブログでの連載は未定です。

お疲れ様、安らかに。




   10

「こちらが本日の昼過ぎ、殺人事件のあった現場のビルです。えー、現在も多くの警察と野次馬がビルの前を埋めております。被害者の少年は先ほど病院へ運ばれ、ビルの屋上から少年を突き落とした少女も薬物中毒の禁断症状があらわれ始めていたことから病院へと搬送されました。これから現場検証や証言を取るとのことです」当日、夕方のニュース番組。


「十六歳の女子高生、男子高校生を殺害――昨日正午過ぎ、都内の取り壊しが決定された某デパートの屋上から同じく都内の高等学校に通う女子生徒が別の高等学校の男子生徒を突き落とし、殺害した。女子生徒は容疑を認めており、翌日医療少年院へと入院することが決定している。また女子生徒は薬物中毒者でもあり、殺人罪と薬物乱用の疑いで取調べや現場検証がなされている」翌日の新聞記事。


 実に陳腐だ。興味関心、好奇心を集めるこそすれ、それ以上でもそれ以下でもない、日常の一事件として取り扱われる、実に陳腐な内容。

 犯人と被害者それぞれの学校では全校集会が開かれることだろうし、被害者の葬式だってある。それらもマスコミはこれから報道していくのだろう。人の死すらも大衆娯楽の対象となってしまうのだ。好奇の目に曝され、およそ安息の日々はない。

 もっとも、真の犯人は別のところにあるのだ。それに気づかないマスコミはもう腐ってるとしか言いようがない。どいつもこいつも得体の知れない、歪んだ正義を振りかざして、付和雷同に「ドラッグに手を出す方が悪い」と一方的に決めつける。どのマスコミもそう、どのコメンテーターもそう、どの教師もそうだし、どの親もそうだ。

 世の中には、のっぴきならない状況に巻き込まれてしまうことが多々あるものだ。ドラッグに手を出すガキが悪いのでもなければ、ドラッグそのもの、あるいはドラッグの売人が悪いわけでもない。真に悪なのは状況や環境だ。ガキを野放しにする社会そのものが悪いのだ。ガキはひとりきりじゃ生きてはいけない。二人いても生きてはいけない。家や学校に居場所がないガキはほっぽり出されて黙殺される。親戚や施設なんかに救済されなかったガキは平気で盗みをやる。平気で徒党を組む。平気でドラッグをやる。そして、平気で人を殺す。

 今回の事件で死んだガキ、煤賀円は実に狡賢く、実に切れ者なヤツだった。自分でドラッグをやってその効果を試し、ドラッグ売人グループに平気な顔をして加入し、かつ自分で見つけたターゲットにドラッグを売りさばく十七歳。親に虐待され、親戚を盥回しにされた挙句に家出をして行方をくらました。高校へは一年目の四月の半ばから行っていない。何が目的なのかさっぱりわからなかったが、生きていく上では金は必要、学校もなく親もいない状況でまともなアルバイトができるわけもない。社会環境が生み出した悪、社会環境が生み出した犠牲者。

 殺人者の水橋翠璃。煤賀円が飼い殺しにした性奴隷。タダで餌を与えて、挙句飼い犬に噛まれ、どうしようもない状況の煤賀円はあっけなく楽園へ逝き、自分のペットに薬物中毒者と殺人犯のレッテルを否が応でも押しつけ、二重苦を与えることとなった。煤賀円の最悪の置き土産。今後まともな生活が送れるとも思えない。

 結局彼らはドラッグに踊らされていただけだったのだろうか。煤賀円が性欲を満たすためだけに水橋翠璃に食事や飲み物、さらにはドラッグを与え続けていたとは到底思えない。得体の知れない目的があったはずだ。それとも、ヤツの鋭利な脳みそは完全にドラッグ漬けになってしまっていたのだろうか。

 もしかするとヤツは水橋翠璃を実験体にしていたのかもしれない。何か特殊なドラッグが手に入って、その効果を試していた? いや、ヤツはいつも自ら実験体になっていた。この腐りきった、どうしようもない社会から逃れる一時凌ぎのために。いつ自分が死んでも構わないというように。

 ただの偶然に過ぎないのだろうか。ヤツは屋上で薬物禁断症状を顕している少女に出会う。ドラッグをまさに薬として使う。その後ヤツは少女を好きになり、そのままタダメシを食わして暮らしていた。そんなところだろう。

 何にせよ、これ以上追究しても仕方のないことだ。ヤツは死んだ。少女は医療少年院に入院。麻薬グループの参謀の消失。屋上遊園地をねぐらにする不良少年少女のあっけない幕切れ。


 ドラッグによるトリップは楽しめたか?


 水切りだけじゃ物足りない、岩が地面を跳ねるような快感に満足したか?


 ホップ(アヘン)やロック(コカイン)のオーソドックスなものから手当たり次第に何でも試していた天国暮らしはもうお終いだ。


 さあて始まりだ。苦痛の始まり、狂気の始まり、釜も定員オーバーになるぐらいの地獄絵図。見ものだ。


 誰のせいでもないのなら、どこに怒りを向ければいい?


 誰のせいでもないのなら、誰に怒りを向ければいい?


 キミかわたしか、それともみんなか。




to be continued...

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