2010年6月20日

水溜りのホップロック 05

プロレタリア文学を学んでいると、どうしてもこの社会に対する懐疑心が生まれてしまう。

就活(醜活)とか、皇室問題とか、労働法を必修科目に組み込まない大学とかね。

それに加えて炎症性腸疾患(IBD)罹患者の就労問題も。


世の中の決定的な歯車が欠けてしまっているような不安感が渦巻いている。





   05

「このデパートは一昨年潰れた。おれたちはその頃からここの屋上遊園地に入り浸っているわけだ。

屋上遊園地はデパートが潰れる半年ぐらい前に閉鎖していて、ほとんど廃墟と化していた。

閉鎖と同時に屋上へはエレベーターは行かなくなっていて、階段もロープで封鎖されていたけどそんなものは意味をなさず、屋上へのドアの鍵なんて簡単に壊せる代物だった。

デパートが潰れてからも遊具は残っていたし、自動販売機もついこの間まで残っているぐらいの杜撰な管理。


ほら、見ろよ、

取り壊しの目処もまるで立たずに、こうやって什器がガラクタのように放置されてるこの廃墟ビルのワンフロアをさ。

社会から取り残されたビル。
世界から取り残されたビル。
おれたちにソックリだ。

何の生産活動もせず、誰とも関わりを持たない。どの階に行っても無残に空虚を残すのみで、各階連絡のエレベーターは動かない。

おれたちに本当にソックリだと思わないか?
この心の空っぽを一体誰が埋めてくれるっていうんだ?
おれはスイリの心の空っぽを埋めてやることはできないし、スイリだっておれの心の空っぽを埋めることはおそらくできないだろう。

だったら取り壊すか?
取り壊して、世界の記憶から抹消されるか?

建て直すならいいわけだ。ピカピカの壁面に最新の耐震構造、エレベーターだって広くでかいやつを入れて、屋上遊園地なんていう旧時代の遺物は取っ払っちまってテニススクールでも何でも開きゃあいい。いやな過去は抹消して、これからの時代を作っていく。

でもそんなことがおれに可能だろうか?

おれはどうして学校へ行かなくなってしまったんだ?

おれはいつから努力することをやめてしまったんだ?

スイリはどうなんだ? 学校へ行かなくなった理由、覚えているか?

ああ、いや、話さなくていいんだ。心の空っぽを共有するなんて、負け犬が傷を舐めあっているみたいでひどくみじめだからね。
結局理由の相対化なんて不可能なんだよ。他人してみれば何だそんなことっていう理由でも、本人にとっちゃ絶対的なんだからさ。

ああ、そうか、だからおれはがんばるのをやめたのか。いくら努力しても認められないから、嫌気が差したんだろう。
いや、違うか……? 最近物忘れが激しいな。いっそこのまま何もかも忘れてしまえればいいのに。

このデパートの存在みたいに。
このデパートの屋上遊園地みたいに」


 そう言い捨てると、エンは床に落ちていた金属片を蹴り飛ばした。


 遠くまで転がっていって、向こう側の壁に当たって跳ね返った。


 忘れ去られた人々の営みの残骸に、軽い音がこだました。

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